Actor - Network Theory (ANT)とサービスデザイン


Service design meets ANT



Latourは、社会に存在するものをアクターとして捉え、その関係性(network)に注目したActor - Netowork Theory(ANT)の中心的な研究者だ。これまでの観察者であった社会学から、社会と共創する社会学への変換を提言する。そのために、すでにある社会の構造ではなく関係性に注目する。関係性、アクター間の相互作用は、時空間を超え、動的、多様である。Latourのいうa way of associating, mediatorsの本質は、アクター自身による主体的なフレーム変換((re)-framing)であり、社会をリデザインする新たな視点である。社会学者は、それを見出す共創者となる。
Latourは科学技術の生まれる現場を研究していた。そのため、技術の進化を説明するために社会学的なアプローチで知見を提供しても、彼らは簡単には合意しなかった。一方、科学のように進歩が明確でないそのほかの領域では、社会学からの知見を受け入れるか、議論になったとしても理解が浅いとして取り合わなかった。そのため、社会学は自己満足的な細分化された現場と隔離された学問になったのではないかと考察している。イノベーションの現場を研究することによって、ANTが生まれた。Latour自体の研究も共創によって進展している。
MBAのサービスデザインの授業では、未来の変化を議論するために、CVCA(Customer Value Chain Analysis)を描き、その時間変化を外部要因・内部要因等から理由づけを試みている。これは、簡易版のANTによる解釈をしていたのかもしれない。

ANTは問題を設定し直す

ANTは3つのステップからなる。
  1. 対象(the global)を分解し(the local)置き換える(relocate) 
  2. 相互作用を理解するために、分解した事象を再配分する(redistribute)
  3. これらで明らかになった状況を結びつけ、この変換を促す装置を見出す(hilighting vehicles)
Latourが再三強調していることは、フレームで社会の見方を規定するのではなく、視点を作り出していく(framing)こと、ズーミングして詳細を見ること、ゆっくり進め(すぐさま、コンテキストと切り捨てるな)、飛躍するな、フラットに保てということ。また、スケールは観察者が一方的に与えるのではなく、アクター自身が見出す。
このステップは、サービスデザインでいうと、アクターを再定義し、新たなResource Integrationによって、コンフィグレーションを変換することにあたる。

ANTによる視点の変換

アクター間の相互作用は、アクターの活動を制限するのではなく、新しい視点を与える資源となる。複雑に絡み合う相互作用を単純化したり削除するのではなく、全ての関係性を新たなコンセプトで一新する。反対に、外部との結びつきがあることによって、内部の理解が進む。
新しい視点が得られると、アクターの外部は、すでに今までと変わっている。Latourはこの変換のメカニズム、making doに関心を持つ。これは、現状から未来への変換であり、転写、転移、翻訳である。社会は、「時間的にも空間的にも持続する混在的な存在の束」であり、静止は特殊な状態で、変換が定常状態とみる。

Inter-objectivityの役割

現状を分解し、構築し直すことによって、過去のコンテキスト、相互作用から自由になれる。過去のしがらみから離れるために「間もの性(inter-objectivity)」が役に立つという。現在観察される事象の見えない部分を、情報やコミュニケーション、データなどによって見つめ直すと、新しい関係性が見えてくる。現状の常識から離れ、ローカルな基盤が消え去った時に、新しい視点が現れる。
これは、IBM時代に自動的に戦略から実行プロセスを変換する研究をしていた時を思い出させる。視点の変換機としてデータを活用することで、プロセス変換が可能になった。データに注目したのは、変わりやすいプロセスに対して、変わりにくかったからである。ものだけではなく、変わるもの、変わらないもの(変わりにくいもの)に注目することによって、新しい視点のヒントが得られるかもしれない。

ルーマンの社会システム論とANTと意味のデザイン

ルーマンの社会システム論が深く立ち入ってはいない新しい意味の創造部分が、ANTでは焦点であり、補完的である。ANTは社会学者の立場で視点の変換にアプローチしているのに対して、デザイナーは意味のデザインとして同様の課題に接近している。サービスデザインに影響を与えているSDL(Service dominant logic)研究においても、これまでのマクロ的なサービス創出のライフサイクルから、新しい価値の出現、emergence、に焦点を当てている。今後、この領域にANT, Enthnogragy, 意味のデザインからアプローチしてみたい。

付録

書籍に出てきたIBMを研究していた学生は無事に卒業できたのか?気になるところである。学生とのやり取りの中のLatourは、どこかで覚えのある感じ。MBAの授業の初めにいつも、「フレームや知識を得るためにこの時間はありません。新しいものを創り出すためにあります。」と言っている教員を知っているぞ。。。

参照:Latour, B. Reassembling the Social – An Introduction to Actor-Network-Theory (2005)