ルーマンの社会システムとSDL(Service Dominant Logic)の考察

ルーマンの社会システムとSDL


ルーマンはSDLで社会を見ているようだ。ルーマンは社会システムの最小要素をアクター間の「コミュニケーション」とする。アクター間のリンクであるコミュニケーションを基に社会システムを構築することによって、システムを統一的に捉えることができる。システムは観察され、それらを観察することによって意味付けられ特有な方向に進化する。
一方、SDLは最小単位をサービス、アクター間のサービスによってサービスシステムが構成される。サービスシステムは動的に変化し、形態を変化させる。ルーマンと異なるのは、システム内に人も入ること。また、環境というよりも、個々のサービスのコンテキストが強調されている。(image ref: https://en.wikipedia.org/wiki/Niklas_Luhmann)

第2次的観察、エスノグラフィー と創発

ルーマンの第2次的観察は、エスノグラフィー の分析のようだ。観察とは、「ある区別を手がかりとしてさし示すこと」である。ルーマンは一般の観察である第1次的観察に対して、第2次的観察である他の観察者がどのように観察しているかを観察するとき、世界理解や存在理解や現実理解の根本的な転換が行われるという。最初の観察による慣れ親しまれている区別から、第2次的観察ではそれぞれの観察視座を通じて、新しく意味が発見される可能性がある。
ルーマンは第2次的観察者の「特定のものに対する盲目性が特定のものへの眼を開かせるのだ」という。この視野の盲目性創発の起点なのだ。エスノグラフィー の分析におけるインサイト、新しい意味の発見と通じるところがある。意味は、ある特定の目的を記述するために用いられ、継続的に可能性を現実化し、「自分自身を推進する過程として、健在化の過程と潜在化の過程とを統一したもの」という。意味は、後続するコミュニケーションの一定の可能性・方向性を示す。

近代社会の本質

ルーマンのいう近代に生きる人間に与えられた能力は、あらゆる偶発的に生じる事象を観察し、それらを解釈して自律的に次のコミュニケーションを発することで世界と共創することではないか。全ての構造、機能はアプリオリに与えられているのではなく、いかようにも変化する。社会構造の進化論的発展は、「立案者なしに」起こるのだ。それを可能にするコミュニケーションを生み出すアクター、人間こそその力を享受できるのだ。
2000年以降のインターネットの発達とともに、人間以外にcomputing machineが今まで環境であったオブジェクトのコミュニケーション伝達を可能にした。これらを集め、解釈さえ人間よりも広範囲で短時間に可能になった。私達は、このように広がったコミュニケーションから新たな方向づけをすることを期待されている。

多中心的世界を可能にするのは何か

場所と時を同じくする単純な原始的な集まりの環節的分化から、複雑性が増すことによって成層的分化へと社会構造が変換する。成層構造では、平等ではない分化が起こり、起きている事象(何が起きているのか)ではなく、誰が言っているのかが、決定的な意味を持つ。透過しにくい層によって異なる機能を持つ成層構造は、階層化と直接的互換性によって成り立つ。それぞれのシステムが自律的に進化し、それぞれが排他的で互いに代替しえない機能的分化に移行する。
機能的分化は、そのシステムの意味、〜であるか、でないか、によって部分システムを形成する。それを2次コード化という。第2次的観察を行う観察者の独自の意味論やシステムの固有値によって社会システムが方向付けられる。部分システムの区別、コードはシステムそのものを形作り、システムでは観察できず、それを超えることでパラドクスが生まれる。新たに生まれたコードに部分システムを割り当てることをプログラム化という。
ルーマンが焦点をあてているのは、コードによって生まれる組織体ではなく、それを生み出す政治的・経済的・学術的などのコミュニケーション・人のロール(役目)である。それらを解釈して新しい意味、コードを作り出すのは、まさしく人、私達である。社会文化的進化は、「自分自身を条件づける選択」の結果なのだ。社会文化的進展は、他社準拠ではなく、自己準拠に依存している。とすれば、この問いの答えは、自分、そのもの自身だということ。ここまで読み進むと、ルーマンもカント同様、人間賛歌のエールを送ってくれているのではないか!

『ルーマン社会システム理論』から私的用語要約

ルーマンの捉えるオートポイエーシス的(自己産出的で自己保存的な統一体)社会システムは、コミュニケーションを最小単位として、それを回帰的な過程の中で自ら産出する自己準拠的(self-referential)システムである。社会システムは、構造(排除によって機能を制限)と過程(適切な接続)によって形成される。

コミュニケーションは、有機体や神経システムとは異なる社会システムであり、情報、伝達、理解という構成要素からなる。人間は、社会的出来事によって不可欠な環境条件である。社会的出来事は、コミュニケーションによってコミュニケーションを産出する自己準拠的過程である。
ある環境において、コミュニケーションが産出される。その環境には、コミュニケーションを刺激する意識からなる心的システムがある。心的システムと社会システムは、自己準拠的システムで補完的な関係である。

社会システムには、相互行為システム(人々が行為することによって成立)、組織体システム(構成員によって組織されている)、ゲゼルシャフトシステム(全てを含む包括的なシステム)がある。世界はシステムでも環境でもなく、全てのシステムとそれに属する環境を包括しているおり、「システムと環境のの差異の意味統一」を示す。