Stanford University d.school訪問記




3月19日(3/19-21/2014)からStanford University d.schoolを中心に訪問してきました。以下今回の訪問のメモです。


ME410: Foresight and Innovation開発の背景

もともとME310はProblem based learning, Immersion, Simulationを組み合わせて始まり、いかに示すように変化してきた。

Table 1. Nine eras in ME310 history (ref: Stanford’s ME310 Course as an Evolution of Engineering Design, T. Carleton, L. Leifer, CIRP Design Conference 2009)

近年の企業からの要求の変化のひとつが、将来ビジョンの開発である。これまでd.schoolで行ってきた教育は、現在存在する問題の解決を目的としてきた。そのため、問題発見、アイデア創出、プロトタイプのプロセスで工学とアート/デザインの融合を目指してきた。一方、将来ビジョンの開発では、これらの手法だけでは不足する部分がある。それは、ビジョン・戦略の強化である。そのため、ME410は起業家手法等を参考にして、Vision+Strategy+Design+User centricの統合により開発された。また、経営者/コンサルとデザイナーとエンジニアが互いにコミュニケーションできる様に手法を吟味しツールキットとした。現在の問題解決だけではなく、今ない未来を創造することを目的とする手法として現在グローバル展開(企業/大学)している。ツールキットの開発は、FinlandのTekesが協力し行った。


Figure 1. Foresight and Innovation basis concept


コースの提供形態


基本的に全ての情報はオープン、誰でも使用可能とする。企業との協業においても同じポリシーで行う。個別の案件の場合には、別途別会社を通じて契約し機密に行うこともある。通常、学生に対するコースは基本コース9weeks、基本的な手法/ツールの教育から、プロジェクトでの実践を行う。一度基本コースに参加した学生は、次回からは2-3weeksでプロジェクトのみを実施。企業に対しては、3daysの基本手法/ツール/未来志向の教育/プロジェクトの事例紹介、および5daysでのリーダーシップを追加したコースを提供している。特に5daysコースでは、多様な事例紹介を組み入れていて大変好評である。通常、20−24人、3−5チームで実施している。講師からの情報提供よりも、チーム同士での共有に価値があり、頻繁にリフレクションの時間を取るようにしている。以下にForesight and Innovationのフレームワークを示す。


Figure 2. Foresight and Innovation framework (Foresight and Innovation playbook)

海外での展開

海外では、Aalto University始めとして StanfordのME310/410が展開されている。
Aalto Universityでは、International Design Business Management program (IDBM)として、研究/教育プログラムとして実施されている。デザインビジネスマネジメントに関する多様なフィールドから人材を集め、高スキルのプロフェッショナルを育てている。IDBMは2年間のマスタープログラムとして実施、Aalto University、School of Business, School of Arts, Design and Architecture, School of Science, School of Chemical Technology, School of Electrical Engineering, School of Engineeringの6校から36人が参加、各スクールから最大で12名の学生を選出している。海外では、Stanfordの手法をそのまま導入するというよりも、各国の文化や状況によってカスタマイズしている。例えば、通常Stanfordでは最大4名の学生のチームを推奨しているが、韓国では8−10名のチームで実施する事も多い。それぞれ国/学生の状況によってカスタマイズすることが必要であろう。

今後の展開

現在、Playbookに加えて、bookletsの開発を行っている。手法全てを使うプロジェクトは少なく、プロジェクトによってそれぞれ手法の組み合わせが異なる。そのため、それらの例を集めたbookletsを作成中である。手法/ツールの連携事例をより広く集めて情報発信していく。
こちらでの取り組みを紹介し、プロトタイピング、特に経験やシステムのプロトタイピングの手法の開発の必要性を示した。これに対しては、全く同意ということ。今後、特にシステムのプロトタイピング領域における知識の開発を進めていく。

d.schoolで実施中のプロジェクト

- Stanford 2020 Stanford大学の将来を考えるワークショップを学長リーダーで実施中。企業からのスポンサー案件2件と学内スポンサー案件2件、全ての費用は大学でもっている。企業からの題材では、オンライン教育を含む教育の将来、インターネット等の技術の浸透によるビジネス上の必要なスキルの洗い出し、学内案件として図書館の将来、学生寮の今後のトピックがあがっている。
- K-12 このプロジェクトはここ数年かけて行っている。スポンサーはSan Francisco自治体。始め数ヶ月で仕上げる予定が、やればやるほど問題が広がってきており、根本的な改革が必要であろう。今年も継続中。
- Social Innovation Project: Design for Extreme Affordability 世界各国の人と組んで現実世界の問題に取り組んでいる。カンボジア、インド、ネパール、ニカラグア、セネガル、南アフリカにパートナーを得て実施中。成功例として、エンブレース(Embrace)という安価な商品がある。赤ん坊のおくるみのように見えるが、新生児の低体温症を防ぐ働きを持つ。このプロジェクトは今年も継続中。

d.schoolの体制

Fullの教授2名、その他100名体制で活動をサポート。卒業生、近辺の企業のサポートを潤沢に得られるエコシステムが出来上がっている。これまで学生は40%学部、60%院生であったが、大学からはもっと学部生の割合を増やせとプレッシャーがある。今まで、ボトムアップで好きにやらせてくれ、大学マネジメント側は、リスクをとってくれていた。今後は、このような大学の期待へも答えていく必要が出てきた。d.schoolとして目指すべき事はなにか、再考中である。

d.schoolのクラスに参加した感想

参加する学生達のスキルの高さ、特にIT、形にする力(工学に関する知識)、ビジネス力(一般常識的な経営、ビジネススキル)に驚かされる。日本の標準的な大学生よりも随分と成熟している。そのため、学部であっても十分プロジェクトで貢献/リード可能。
コースは、事前学習、プロジェクト内でのアサインメントも多く、とても忙しい。参加する学生は、目的意識も高い。それは教員においても同様。パッションを持ち、変化を楽しむ風土がある。

ビジネスと大学との連携

Salesforce.comにとって、将来的なコミュニケーションのプラットフォームとしてどのような機能が必要なのかについて興味深い。最近University Relationshipという部門を創成。今までは、製品のオファリング、大学プロセスの支援を行ってきた。これからは、モバイルを含め新しいコミュニケーションプラットフォームとなるよう、大学との連携を進めている。